ヤシ科植物上で特異な子実体をつくる糸状菌 Endocalyx属菌

2022/08/03

ヤシ科植物上で特異な子実体をつくる糸状菌 Endocalyx属菌

Berkeley and Broome (1877) により設立された Endocalyx属の菌類は主としてヤシ科植物の枯れた葉柄などに生え、有性生殖が知られておらず、無性胞子(分生子)により増殖します。 Endocalyx属菌の子実体(分生子果)は形態的に極めて特異で、外観は分生子座様またはシンネマ様ですが、全体が黄色~茶色の薄くてもろい外皮に覆われています。 なかでも、E. cinctusはシンネマ様の子実体の基部が炭化した黒色・円筒形の別の外皮によりさらに包まれており、この様な構造の子実体は他の菌類には見られません。 驚くことに、この複雑な子実体は、滅菌天然基質に分離株を接種して湿室に保つと容易に誘導することができます(図1)。 Endocalyx属菌の分生子は Arthriniumのものと酷似し(特に、E. melanoxanthus; 図2)、黒色~茶褐色・単細胞で、薄い外皮に包まれたままの子実体の基部から上に向かって押し上げられながら成熟し、子実体全体または上部において、無色透明・糸状の分生子柄と共にびっしりと充満しています。 Okada and Tubaki (1984) はビロウなどより採集したE. melanoxanthus、耐寒性のシュロより得たその新変種 E. melanoxanthus var. grossus、カナリーヤシからの E. cinctus、そしてオガサワラビロウより得た分生子表面が毛状構造物で覆われた新種 E. indumentumについて、日本産標本と本属菌の初めての分離株を用いて、形態・培養性状・基質特異性(ヤシの種類)などについて詳細に検討しました。 しかし、その当時は報告されていた他のいくつかの種については不明な点が多く、また分子系統学的データも皆無でした。 最近、極めて検討不十分な状態ではありますが、互いに関連するタイと中国の研究グループが Endocalyxの2新種を報告しました。 そこで、アメリカ産の試料を含めて、私たちが1984年以降に採集分離した多くの追加試料を用い、タイ産の新種(E. metroxyli)も加えて、代表的な Endocalyx属菌の分子系統・形態・培養性状・生態などについて総合的に再検討を加えました(Delgado et al. 2022)。 その結果、シュロに生育する E. melanoxanthus var. grossus は変種ではなく、独立した種であることが判明し、以下に示すEndocalyx 4種の実体がさらに明らかになりました。 また、Endocalyx属のこれらの代表種が子嚢菌類の Cainiaceae (Xylariales) に帰属することも確認できましたが、残念ながら属の基準種である E. thwaitesiiについては新たな試料や分離株は未だ得られていません。


Endocalyx: Cainiaceae, Xylariales
Endocalyx cinctus Petch
Endocalyx grossus (G. Okada & Tubaki) G. Delgado & G. Okada
(Basionym: Endocalyx melanoxanthus var. grossus G. Okada & Tubaki)
Endocalyx indumentum G. Okada & Tubaki
Endocalyx melanoxanthus (Berk. & Broome) Petch
(= Endocalyx metroxyli Konta & K.D. Hyde)
(菌株情報はJCMオンラインカタログを参照 https://jcm.brc.riken.jp/ja/catalogue)


参考文献
Okada G, Tubaki K (1984)
A new species and a new variety of Endocalyx (Deuteromycotina) from Japan. Mycologia 76: 300-313.
https://doi.org/10.1080/00275514.1984.12023839

Delgado G, Miller AN, Hashimoto A, Iida T, Ohkuma M, Okada G (2022)
A phylogenetic assessment of Endocalyx (Cainiaceae, Xylariales) with E. grossus comb. et stat. nov. Mycological Progress 21: 221-242.
https://doi.org/10.1007/s11557-021-01759-9

 


図1: Endocalyx cinctus JCM 7946, オートクレーブ滅菌したビロウの葉柄に接種, スケールバー = 1 mm.

 


図2: Endocalyx melanoxanthus G. Okada 126 (標本), 湿室に保ったビロウの葉柄.



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