********************************************************* RIKEN BioResource Center - Japan Collection of Microorganisms JCM Mail News (電子メール版) No. 55 ********************************************************* 独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室(JCM) が公開している微生物等の最新情報をお届けします。 ━━━━ 目 次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ● 今月のリソース紹介「糸状菌と酵母におけるIAM移管株の遺伝子チェック」 ● 新規公開微生物株(2011年5月公開) ● 理研BRC10周年記念事業 公開シンポジウム ● 夏期一斉休業(平成23年8月22日~24日)のお知らせ ● トピックス「菌類の学名の付け方は大きく変わるのか?」 ● 「Inauguration Ceremony of WFCC-MIRCEN World Data Center for Microorganisms (WDCM) and the First WDCM Seminar」参加報告 ● 被災地の研究者へのバイオリソース無償提供について ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ 今月のリソース紹介「糸状菌と酵母におけるIAM移管株の遺伝子チェック」 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ IAMカルチャーコレクション(東京大学分子細胞生物学研究所)から移管され た糸状菌と酵母について、ITS領域とLSU領域を用いた遺伝子チェックを2010年 より開始しました(但し、酵母についてはLSU領域のみ)。現在までに、糸状菌 130株、酵母94株の解析が完了しました。このうち、糸状菌2株の解析結果と対応 を簡単に紹介します。 JCM 22997はAspergillus sp.として移管されましたが、遺伝子解析の結果、 ITSとLSUの塩基配列がAspergillus candidusのネオタイプ由来株 NRRL 303 (CBS 566.65) の配列と100%一致しました。また、コロニー性状や分生子など の形態もA. candidusであることを支持したため、学名を変更しました。 JCM 22816はPenicillium rugulosumとして移管されましたが、遺伝子解析の 結果、GenBankに登録されているP. rugulosum株のITS配列データとは94-96% の低い相同率を示しました(LSUの登録データはなし)。一方、NBRCデータベー スに登録されているPenicillium phialosporum NBRC 6437 (ex-type) のITSと LSUの塩基配列がJCM 22816の配列と100%一致しました。さらに、JCM 22816の 由来を再検討したところ、同種のホロタイプ由来株であることが判明しました。 従って、P. phialosporumをP. rugulosumの異名とする従来の分類体系は不適 当であると判断し、この株の学名をP. phialosporumと変更しました。 今後も糸状菌と酵母の遺伝子チェックを継続し、バイオリソース情報の整備に 努め、確実な菌株を皆様にお使いいただけるよう努力して参ります。 安 光得(糸状菌・酵母遺伝子解析担当) ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ 新規公開微生物株(2011年5月公開) ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 細菌 Altererythrobacter aestuarii JCM 16339 Type strain Altererythrobacter namhicola JCM 16345 Type strain Anaerostipes butyraticus JCM 17466 Type strain Aquimarina sp. JCM 17106 Bacillus nanhaiisediminis JCM 16507 Type strain Brachybacterium squillarum JCM 16464 Type strain Cocleimonas flava JCM 16494 Type strain Demequina lutea JCM 17019 Type strain Dialister invisus JCM 17566 Type strain Dialister micraerophilus JCM 17567 Type strain Dialister propionicifaciens JCM 17568 Type strain Eubacterium rectale JCM 17463 Georgfuchsia toluolica JCM 14632 Type strain "Hymenobacter algoricola" JCM 17214 Proposed type strain "Hymenobacter antarcticus" JCM 17213 "Hymenobacter antarcticus" JCM 17215 "Hymenobacter antarcticus" JCM 17216 "Hymenobacter antarcticus" JCM 17217 Proposed type strain "Hymenobacter antarcticus" JCM 17219 "Hymenobacter antarcticus" JCM 17222 "Hymenobacter elongatus" JCM 17223 Proposed type strain "Hymenobacter fastidiosus" JCM 17224 Proposed type strain "Hymenobacter fastidiosus" JCM 17227 "Hymenobacter glaciei" JCM 17225 Proposed type strain Hymenobacter sp. JCM 17218 Hymenobacter sp. JCM 17221 Hymenobacter sp. JCM 17226 "Marinitalea sucinacia" JCM 14003 Proposed type strain Micromonospora humi JCM 15292 Type strain Nevskia terrae JCM 15425 Type strain Olsenella umbonata JCM 16157 Pseudomonas sp. JCM 17231 Sphingomonas rubra JCM 16230 Type strain Streptomyces coacervatus JCM 17138 Type strain "Tepidanaerobacter acetatoxydans" JCM 16047 Proposed type strain "Tepidanaerobacter acetatoxydans" JCM 16048 "Tepidanaerobacter acetatoxydans" JCM 16049 "Tepidanaerobacter acetatoxydans" JCM 16050 Thalassobacillus pellis JCM 16412 Type strain Thiomonas islandica JCM 16107 Type strain 真菌 Asterosporium asterospermum JCM 16962 Asterosporium asterospermum JCM 16963 Prosthemium canba JCM 16966 Prosthemium canba JCM 16967 Prosthemium canba JCM 16968 Prosthemium canba JCM 16969 Prosthemium canba JCM 16970 Prosthemium canba JCM 16971 Prosthemium intermedium JCM 16972 Prosthemium intermedium JCM 16973 Prosthemium intermedium JCM 16974 Prosthemium intermedium JCM 16976 Prosthemium intermedium JCM 16977 Prosthemium intermedium JCM 16975 Ex-holotype strain Prosthemium orientale JCM 16964 Prosthemium orientale JCM 16965 詳細は以下のサイトから検索できますのでご利用ください。 http://www.jcm.riken.jp/JCM/catalogue_J.shtml ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ 理研BRC10周年記念事業 公開シンポジウム ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 理研BRCは、2011年1月で創設10周年を迎えました。記念事業として公開シン ポジウム「バイオリソースが拓く生命科学~健康・食料・環境~」を行います。 皆さまのご参加を心よりお待ちしております。 開催日: 2011年7月1日(金) 場所: つくば国際会議場 参加費: 無料 プログラム:http://rtcweb.rtc.riken.jp/BRC10/symposium.html お申し込み:http://www.mother-tank.com/brc10/ 詳細は以下のサイトをご覧ください。 http://rtcweb.rtc.riken.jp/BRC10/index.html ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ 夏期一斉休業(平成23年8月22日~24日)のお知らせ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 東日本大震災に伴う電力不足への対応として、理化学研究所では下記の期間、 一斉休業を実施いたすこととなりました(東北地方太平洋沖地震への対応 http://www.riken.jp/r-world/topics/110314/index.html)。バイオリソース センターにおきましても、期間中を休業日として節電に協力することとし、バイ オリソースの提供等にかかわる業務を休止させていただきます。 ユーザーの皆様にはご不便をおかけいたしますが、ご理解とご協力の程、何卒 宜しくお願い申し上げます。 1. 一斉休業の期間: 平成23年8月22日(月)より24日(水)の3日間 2. 停止する業務 ・ 電話、メールでのお問合せへの対応 ・ 期間中に受領したリソースの提供申込みへの対応 ・ リソースの発送 ・ 見積り書、請求書等の発送 尚、8月19日(金)まで、また8月25日(木)からは通常通り業務を行います。 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ トピックス「菌類の学名の付け方は大きく変わるのか?」 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 菌類の学名は国際植物命名規約(ICBN)に則って付けられます。正しい学名を 用いる重要なポイントとして発表の優先権や1生物種1学名(統一命名法)など の原則がありますが、子嚢菌類と担子菌類においては後者の原則について例外が 認められています。すなわち、有性時代(テレオモルフ)と無性時代(アナモル フ)の両方を備えた多型的生活環をもつそれらの菌類では、両時代の形態や生育 環境などが異なるため、それぞれに対して別々の学名を付けることが認められて います(二重命名法; 以下の例を参照)。また、有性時代が知られていない無 性時代のみの菌類も数多く存在するため、これらが混在した菌群を実用的に分類 するために二重命名法のシステムが上手に運用されてきました。 麦類赤カビ病菌における二重命名法の例(両者の胞子の形態は大きく異なる) 有性時代: Gibberella zeae(但し、種の学名としては有性時代のものが 優先される) 無性時代: Fusarium graminearum しかし、分子系統学の進歩により、有性-無性関係がかなり正確に推定できる ようになってきました。そして、すべての菌類において1生物種1学名の原則を 採用すべきであるという気運が高まり、ICBN 2006(第59条)の改正が徐々に始 まりました。すなわち、無性時代しか知られていない菌類の有性時代が新たに判 明した場合は、従来のように有性時代の新しい学名を提案するのではなく、既存 の無性時代の学名に対して特殊なタイプ選定(テレオタイプ選定)を行い、無性 時代の学名に有性時代の意味を付加してもよいことが認められました。この問題 は国際菌学会議2010年などでも議論され、「1菌種1学名に関するCBSシンポジ ウム」(2011年4月)を経て、菌類の統一命名法に関する"アムステルダム宣言" が最近発表されました。しかし、一方では二重命名法をしばらく維持すべきとす る慎重論も支持されています。いずれにせよ、本年7月にメルボルンで開催され る国際植物学会議命名法部会で菌類の学名の付け方について大きな決定が下さ れるため、その推移を見守る必要があるでしょう。なお、この問題に関するより 詳しい解説は以下のサイトよりご覧いただけます。 http://www.jcm.riken.jp/JCM/mycol_soc_kanto_20110514_abs.pdf 岡田 元(専任研究員) ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ 「Inauguration Ceremony of WFCC-MIRCEN World Data Center for ┃ Microorganisms (WDCM) and the First WDCM Seminar」参加報告 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ World Data Center for Microorganisms (WDCM)はWorld Federation of Culture Collections (WFCC)に登録されているカルチャーコレクションに関する 国際的データベースを運営するセンターで、Queensland大学の故V. D. B. Skerman教授がWorld Directory of Collections of Cultures of Microorganismsとして各コレクションのデータを編纂した後に、菅原秀明博士指 導の下に理化学研究所、国立遺伝学研究所に引き継がれて運用されてきました。 そして2010年には中国科学院微生物研究所(IMCAS)に新たに移管されることが 決まり、この度2011年5月17日~18日にBeijing Friendship Hotelにて標記式典 と第1回セミナーを開催しました。これら会合に参加する機会を得ましたのでこ こに報告したいと思います。尚、日本からは他に菅原秀明博士(国立遺伝学研究 所)と鈴木健一朗博士(製品評価技術基盤機構)が参加致しました。 WDCM式典ではIMCAS所長のL. Huang博士のオープニングアドレスとWDCM盾 の披露に始まり、WFCC会長P. Desmeth博士、CODATA会長H. Guo博士、UNESCO 代表R. Jayakumar氏、IMCAS所長L. Huang博士、前WDCM主任・菅原秀明博士、 そして新主任となったJ. Ma博士の講演が行われました。引き続いて第1回WDCM セミナーが開催され、新たな微生物資源開発とそれを支援するカルチャーコレク ションの状況報告やカルチャーコレクションネットワーキング、危機管理、広報 活動、今後の情報基盤の展望など興味深い話題が取り上げられました。 ここでJ. Ma博士が明らかにした今後のWDCMの計画について簡単に紹介致し ます。博士によればWDCMは新たなWFCCのホームページを立ち上げ、そこにはこ れまでのコレクションのデータ(CCINFO)に加えて、ISO11133や国際食品微生 物衛生学会内のワーキンググループによってリスト化されている食品・飼料・飲 料水・医療品等の微生物検定等に用いる菌株を扱うReference Strain Catalogue、 WFCC加盟機関の総合菌株オンラインカタログ(World Catalogue of Microorganisms)、コレクション菌株の論文・シークエンス情報の統計学的デー タ、研究コミュニティ関連情報をデータベース化・公開していく予定とのことで す。このうちWorld Catalogue of Microorganismsは本年末までにアジア及びヨ ーロッパにおけるカルチャーコレクション・ネットワーク内で構築された総合カ タログをデモ版として公開し、翌年にはWFCCに登録されているカルチャーコレ クションにも呼びかけて世界レベルでのワンストップ・カタログを目指すもので す。この様にWDCMの活動は単にカルチャーコレクション関係者だけでなく、微 生物リソースを扱う研究者・技術者にも大いに役立つことが期待できるものと思 います。現在、WFCCのホームページは下記アドレスでアクセスできますので、 興味のある方はどうぞご覧下さい。 http://new.wfcc.info/index.php/home/ 伊藤 隆(専任研究員:WFCC理事) ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ 被災地の研究者へのバイオリソース無償提供について ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 東日本大震災の被災地の研究者の復興支援として、理化学研究所バイオリソー スセンターでは、当センターが提供したバイオリソースの中で、震災で利用不可 能となったバイオリソースを無償にて再提供いたします。また、震災の影響のあ った大学、研究機関、企業などで、当センターが保有するリソースをご希望の方 は 別途ご相談ください。 対象: 震災の直接的な影響のあった地域にある大学、研究機関等。具体的に は政府が指定する災害指定地域(災害救助法適用地区、但し帰宅困難で指定さ れた東京都は除く)にある大学、研究機関等 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014j2y.html 受付期間: 平成23年4月20日から平成23年9月30日まで 詳細は以下のサイトをご覧ください。 http://www.jcm.riken.jp/JCM/shinsai.shtml ------------------------ ※ メールでの情報提供受信を中止されたい場合は、微生物材料開発室 (inquiry@jcm.riken.jp)まで「メールニュース不要」の旨をご連絡下さい。 ※ 当メールへのご質問などは、微生物材料開発室(inquiry@jcm.riken.jp) までお送り下さい。 ※ 当メールニュース受信者各位機関のサーバーメインテナンス等によりメール ニュースをお届けできない場合でも、メールニュースの再発行は行いません。 発行済みのメールニュースは当開発室のwebサイトで公開しておりますので そちらをご覧下さい。 http://www.jcm.riken.jp/JCM/mailnews.shtml ※ 本メールに記載された内容は予告することなく変更することがあります。 ※ 本メールに掲載された記事を許可なく複製・転載することを禁止します。 _____________________________________________ 発行 独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室 (JCM) inquiry@jcm.riken.jp http://www.jcm.riken.jp/ 2011年6月15日 _____________________________________________